不安でならない強迫性障害
(1)強迫性障害とは?
 
 
誰でも火の元や戸締りなどが気になることはあるもの。しかし、何度も確認しているにもかかわらず、きちんと確認したかどうかが不安でならない――強迫性障害は、理性では「バカバカしい」「まったく意味がない」とわかっている(自我違和感)にもかかわらず、不安や恐怖にとりつかれてしまう脳機能の誤作動による疾患です。かつては、強迫神経症と呼んでいました。現在、この病気で悩んでいる人は人口の約2%といわれ、決して、めずらしい病気ではありません。
(2)具体的にはどんなことが気になってしまうの?
 
抱いている不安は人によってさまざま
 
・尿や便が体や衣服についているのではないか (不潔恐怖+洗浄強迫)
・有害廃棄物や放射能に汚染されるのではないか
・自分が汚いものをまき散らして他人に害を与えるのではないか
・鍵をかけていないのではないか  (確認強迫)
・火の元を始末していないのではないか
・大切なものをなくしてしまうのではないか
(3)原因は?
 
 
機能的脳イメージング研究の結果などから,セロトニン動作性ニューロンの機能異常や前頭前野-帯状回-大脳基底核の間を結ぶ回路の機能亢進が強迫症状と関連していると考えられています。
この病気の類縁と考えられているのは、身体表現性障害(例:身体醜形障害、心気症)、解離性障害(例:離人症性障害)、摂食障害、衝動制御の障害(例:抜毛症、間欠性爆発性障害)、神経疾患(例:トゥレット障害)などです。
現代日本のような清潔にこだわる社会状況は強迫性障害の素因を持った人が病気を起こしやすい状況だと言えます。
(4) 症状が現れ始めるのはいつ頃から?
 
 
強迫性障害は思春期頃、時として小学生低学年から、20歳代にかけて男女とも等しく症状が現れ始めます。調査では一般の人の2〜3パーセントが強迫性障害をもつことが知られています。良くなったり悪くなったりと症状は動揺するため、「自分の性格で潔癖症だ」と本人は思い、強迫性障害であるとは気づかずに治療をしない状態で、症状を繰り返すことになります。
(5)治療
 
 
治療の方法としては、行動療法と薬物療法があります。最近のセロトニン仮説やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)などの精神医学研究のトピックは強迫性障害から始まりました。三環系抗うつ薬のアナフラニールやSSRIは日本では現在フルボキサミン(商品名ルボックス,デプロメール)、パルキセチン(パキシル)を使うことが出来ます。
行動療法は、たとえば手洗い強迫の場合、アルコール依存症の断酒に似た気構えをご本人にしていただく必要があります。一度始めたら本人の意志力では止まらない、ほどほどということができない、という点は飲酒のコントロール喪失と似たところがあります。一度手を洗い始めると、洗えば洗うほど、洗い残したところや水はねがかかったところがさらに気になり、疲れ切ってしまうか気の済むまで洗おうとします。まわりが強制的に止めたりすると隠れて洗うこともしばしばです。

 そこで治療場面では、いくら汚れたと思っても、洗いたくなっても、約束の期間はまったく洗わない・洗わせないという方法をとります。患者さんは「ふつうの人は外出から帰ったときに手を洗う」と抵抗しますが、アルコール依存症の人にとって断酒はできても節酒は困難なのと同じように、手洗い強迫の人には人並みの洗い方をすることが困難なのだということをわかっていただかなくてはなりません。まったく洗わないほうがむしろ楽にできるのです。洗わずにいても何も悪いことが起こらないと気づいてもらった上で、治療者と一緒に、ほどほどに洗う練習をくりかえします。治療後にだんだんと元の行為に戻ってしまう場合には、再び洗わない期間を作ったり、時間を制限したりします。こうやって新しい行動を身につけてもらうわけです。確認強迫の場合には、たとえば電気製品を何十個も病室に持ち込んで次々スイッチを切ったり入れたりしてもらうことで、確認しきれず忘れてしまっても悪いことが起こらないのを体験してもらうなどの方法があります。不完全恐怖や強迫性緩慢でも、頭の中で確認をくりかえす余裕がないよう、クイズなどの課題を与え続けたりします。気になっても放っておくしかない状況の体験です。こうした療法を「反応妨害」といい、手洗い強迫の人が汚れにさらされるのに慣れてもらうなど「エクスポージャー(さらすこと)」とともに、行動療法の柱となっています。